特定技能外国人をようやく採用できても、早期に離職されてしまっては採用コストも育成の手間も水の泡になります。「採用できない」という悩みに加えて、近年は「採用した人材が辞めてしまう」「他社に移ってしまう」という新たな課題が表面化してきました。

特定技能制度は2019年に始まり、今年で7年目を迎えます。制度の成熟とともに、外国人材が「転職できる市場」も着実に育ってきました。本記事では、特定技能外国人の転職・離職に関する最新データ(転職経験者の割合、離職が起きるタイミング、分野別の傾向、転職先の地域)を整理し、「採用した人材に選ばれ続ける」ために企業が押さえるべき視点を解説します。

出典・資料根拠

  • 出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第9回)資料2-4」(平成31年4月〜令和5年2月集計)
  • 林野庁「木材産業分野 特定技能外国人 受入れマニュアル」(2024年10月)
  • 出入国在留管理庁「特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議(第10回)」(2025年11月、2025年8月末時点データ)

外食分野で起きている売り手市場化

2026年4月、特定技能「外食業」の新規受入が原則停止されました。受入上限(5万人)への到達が理由です。多くの企業にとって「採用できない」という問題が一気に表面化した出来事でした。

しかしこの停止が外食業の市場にもたらした影響は、それだけではありません。新規受入が止まったことで、すでに日本国内にいる外食業の特定技能外国人の希少価値が上がっています。同じ人材を複数の企業が奪い合う構図、いわば外食分野における外国人材の売り手市場が、他の分野に先駆けて形成されつつあります。

「選ばれる企業になるための施策」が、他の分野よりもいち早く問われているのが、今の外食業の現場です。そしてその答えを今から設計し始めた企業が、外食だけでなくあらゆる分野で次の採用競争を制することになります。

特定技能制度の成熟とともに、外国人材が「転職できる市場」も着実に育ってきました。次のセクションでは、その転職市場の実態をデータで整理します。

転職経験者は22.4%まで広がっている

直近のデータ(2021年1月〜2024年6月末に特定技能で入国・許可された方の2025年8月末時点)によると、転職経験のある特定技能外国人は全体の22.4%に上ります。

制度開始当初(2019年4月〜2023年2月)の自己都合離職率は全分野平均19.2%でした。7年間で転職市場は着実に広がっています。

この変化の背景には、制度の認知拡大があります。日本国内の特定技能在留者が増えるほど、転職先の選択肢も広がります。求人情報や転職支援のネットワークが充実し、「転職しやすい環境」が整いつつあります。

転職の山場は入社後1年以内に集中する

特定技能外国人の転職が「いつ起きるか」を見ると、採用後の早期対応の重要性がよく分かります。自己都合退職者の入職から離職までの期間は以下のとおりです。

入職から離職までの期間割合
6か月以下40.4%
6か月超〜1年以下34.7%
1年超〜2年以下22.0%
2年超2.8%

転職者の75%以上が入職から1年以内に離職しています。しかも40%は6か月以内です。この数字は、入社直後の環境整備と関係づくりがいかに重要かを示しています。

入社して半年以内に離職する外国人材が多い背景として、仕事や生活環境とのミスマッチが挙げられます。「こんな仕事内容・環境だとは思わなかった」という期待値のズレが、早期転職の主な動機になっています。採用前に企業・業務・生活環境を正確に伝えておくことと、入社後の丁寧なフォローが初期定着を左右します。

離職後の約7割は国内で動き続ける

離職した特定技能外国人がその後どのような行動をとっているかを見ると、転職市場の実態が見えてきます。

離職後の行動割合
帰国32.2%
特定技能での転職(他社へ移籍)28.4%
求職活動中・在留資格変更申請中など24.9%
別の在留資格へ変更(結婚・技人国など)14.5%

帰国は3割にとどまり、残りの約7割は日本国内で引き続き活動しています。特定技能での転職(他社への移籍)だけで28.4%を占め、求職活動中の層も含めると国内での転職候補者は相当数に上ります。

つまり「辞めた人材が帰国する」のではなく、「辞めた人材が競合他社に移っている」可能性が高いということです。採用市場と転職市場が連動して動いているという認識が必要です。

転職率は分野によって大きく異なる

分野別の自己都合離職率(全分野平均19.2%)を見ると、宿泊(約30%)・農業(約25%)が平均を大きく上回っています。一方、建設分野は相対的に低い傾向があります。

この差は流入ルートの違いから生まれます。特定技能外国人の流入ルートには「試験ルート(国内外で試験に合格して入国・移行)」と「技能実習ルート(技能実習修了後に移行)」の2種類があります。試験ルートで入国した人材は、もともと特定の会社との継続的な関係がない状態でスタートします。一方、技能実習ルートで移行した人材は実習先の企業とすでに関係が築かれているケースが多く、転職に至りにくい傾向があります。

建設分野は技能実習ルートが約97%を占めるため、実習先との継続就労関係が維持されやすく、転職率が低くなる構造です。対照的に試験ルートが主体の宿泊・農業・外食・介護では、国内在留者の転職市場が形成されやすくなっています。

介護は試験ルートが85%を超え、在留者数も全分野トップクラス(約6万8千人)です。転職市場としての規模は大きく、他社からの引き抜きも活発になりつつある分野です。

転職の66%は大都市圏へ向かう

転職者の66.0%が都道府県をまたぐ転職を行っており、転入超過は東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫の大都市圏に集中しています。

地方の介護施設・食品製造工場・農業法人が採用した特定技能外国人が、より賃金水準の高い大都市圏の企業へ転職するという流れが起きています。地方から大都市圏への人材流出は、外国人材においても日本人と同様のパターンで進んでいます。

「地方だから採用が難しい」という問題は、採用できた後も続くことを意味しています。

「選ばれる会社」になるために企業が設計すべきこと

ここまでのデータが示しているのは、特定技能制度における競争の構造変化です。

以前の競争は「いかに採用するか」でした。今の競争は「採用した人材にいかに選ばれ続けるか」に移りつつあります。転職市場が育つことは、外国人材の側に「より良い環境を選ぶ権利」が生まれることを意味します。その選択に応えられる企業が、次の採用でも選ばれるという好循環をつくることができます。

外食業の停止が示したように、上限数に余裕がなくなった分野では新規採用自体が困難になります。一方で在留者の転職市場は動き続けます。人材が「いる」かどうかではなく、その人材が「自社に留まりたいと思うかどうか」が、企業の人材力を左右する時代です。

ここで重要になるのが、他社との違いを生み出す視点です。賃金水準は他社も上げてきます。求人の見た目は真似されます。しかし「2号移行を支援してくれる」「住居を整えてくれる」「日本語学習の時間と費用を出してくれる」「将来のキャリアを一緒に考えてくれる」という体験は、制度や賃金だけでは生まれません。採用前から設計された育成への投資が、他社が簡単に真似できない差別化要因になります。

データが示す山場は明確です。離職の多くは入社後1年以内、とりわけ最初の半年に集中しています。だからこそ、採用前に業務・生活環境を正確に伝えてミスマッチを防ぐこと、入社直後の生活立ち上げを丁寧に支えること、そして本人の将来のキャリア(2号移行など)まで一緒に描くことが、定着の決め手になります。「選ばれる会社」は、採用した後の体験を設計できている会社です。

特定技能外国人の採用・定着についてご相談がございましたら、いろはなまでお気軽にお問い合わせください。