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免許取得で終わりにしない。外国人ドライバーへの安全教育をどう徹底するか

特定技能「自動車運送業」で外国人ドライバーを採用する際、運転免許の取得はゴールではなくスタートです。本記事では、免許取得後に企業がどう安全教育を徹底するかを中心に、採用後の企業行動として何が求められるかを整理します。

参考文献
厚生労働科学研究費補助金「諸外国における外国人労働者への安全衛生教育の実施手法及び我が国での実効可能性に関する研究(令和6年度 総括・分担研究報告書、研究代表者:吉川直孝)

なぜ「免許を取ったら終わり」ではないのか

外国免許切替の厳格化(2025年10月)の背景のひとつは、「日本の交通ルールを十分に理解しないまま取得した外国人の交通事故の発生」です。試験の難化によって合格基準は上がりましたが、それは最低限の知識・技能を確認するものであり、安全運転の習熟とは異なります。

免許取得のルートが何であれ、採用後に企業が安全教育を継続する義務と責任があります。これは日本人ドライバーにも共通することですが、外国人ドライバーには言語・文化・交通環境の違いという固有のハードルが重なります。

免許取得ルート別の安全教育の課題

ルート①:外免切替の場合

外免切替は「試験合格」という形で日本の運転免許を得るルートです。学科試験は20言語で受験可能ですが、教習というプロセスがないため、日本固有の交通ルール・運転マナーを体系的に学ぶ機会が制度上は設けられていません。

外国語での試験・教材の整備状況

学科試験(知識確認)は最大20言語に対応しており、ベトナム語・インドネシア語・ネパール語・ミャンマー語・タイ語なども含まれています。しかし技能確認(実技試験)の試験官指示は日本語で行われ、試験対策のための多言語学習教材は公的には限定的です。

民間ベースでは外国語対応の試験対策アプリや外免切替専門の教習サービスが整備されつつありますが、利用は任意であり義務化されていません。

難易度と習熟度のギャップ

技能確認(実技試験)は外免切替の最大の関門です。2025年10月の厳格化後、外免切替の合格率は3割前後(30〜40%程度)まで低下したと報じられており難関ですが、合格した人が「日本の公道での安全運転に十分習熟している」とは必ずしも言えません。試験は免許センター内コースでの短時間の評価であり、路上走行・夜間運転・悪天候・高速道路・大型車固有の特性への対応は試験対象外です。

企業としての安全教育の必要性:高

外免切替ルートで採用した場合、企業側の安全教育は他のルートより手厚く行うことが現場の安全確保につながります。

ルート②・③:教習所(通学・合宿)の場合

教習所ルートは学科教習・技能教習・路上走行・卒業検定という体系的なプロセスを経ます。日本の交通ルールを段階的に習得し、路上での実地経験も積むため、外免切替と比べると免許取得時点での習熟度は高い傾向があります。

外国語での教習・試験の整備状況

本免許学科試験(運転免許試験場)は最大20言語対応。ただし教習所の学科教習そのものは日本語で実施される教習所が多く、外国語テキストや翻訳サポートの整備は教習所ごとに大きく異なります。外国語での技能教習(指導員による指導)に対応する教習所は都市部に限られており、地方では選択肢が限られます。

難易度と習熟度

卒業検定の合格率は概ね70〜80%程度。外免切替(厳格化後の合格率は3割前後)と比べると格段に高く、段階的な習熟プロセスを経た結果として免許を取得するため、習熟度の担保という面では外免切替ルートより優位です。

企業としての安全教育の必要性:中

教習所ルートでも、業種固有の大型車・旅客車の特性、実際の乗務ルート・状況に応じた対応は企業側の教育で補完する必要があります。

安全教育の先進国は何をしているか

厚生労働科学研究の調査(令和6年度)によると、外国人労働者の受け入れが進む先進国では、多文化・多言語を前提とした安全衛生教育体制が制度的に整備されていることが確認されています。

オーストラリア

事業者(PCBUs)に対して包括的な安全配慮義務が法的に課せられており、多言語対応資料の整備・翻訳支援・実技重視の教育手法・AR教材の活用などが有効に機能しています。高リスク作業に対しては全国共通の資格制度が設けられており、安全教育の実効性を制度的に担保しています。インスペクター(監督官)には作業停止命令・即時罰則等の強力な権限が与えられており、企業側の実施を促す仕組みが整っています。

アメリカ(OSHA)

特に建設業などで高リスク作業に対する厳格な訓練要件と多言語対応訓練が整備されています。カリフォルニア州では連邦基準を上回る安全衛生規則が運用され、スペイン語等による研修の実施が進んでいます。

共通する課題と日本への示唆

各国の調査から共通して浮かび上がる課題として、外国人労働者に対する情報伝達手段の整備、教育機会の保障、事業者責任の明確化、多言語支援の制度的枠組みが求められることが明らかとなっています。

日本については同研究で以下の5点の方向性が示されています。

  1. 教育義務の法制度上の明確化
  2. 多言語対応と翻訳支援体制の整備
  3. 送出国との教育連携(出国前教育の質の標準化)
  4. ピクトグラム等の視覚教材の活用促進
  5. 監督体制と事業者責任の明確化

安全教育のギャップ——送出国の実態

同研究では、日本への主要送出国であるベトナムとタイの送出機関の安全衛生教育の実態も調査されています。

ベトナムでは、ある機関では1時間程度の形式的な教育にとどまっていた一方、別の機関では日本の制度を参考にした12時間の体系的プログラムが実施されており、教育内容と指導体制の格差が大きいことが確認されました。

つまり、同じ国籍・同じルートで来日した人材であっても、出国前教育の質によって安全衛生に関する習熟度が大きく異なる可能性があります。採用時に「どのような事前教育を受けてきたか」を確認することが、入社後の教育設計の出発点として重要です。

非言語コミュニケーション——ピクトグラムの活用

言語の壁を越えて安全情報を伝える手段として、国際規格 ISO7010:2019 に基づくピクトグラム(安全標識)の活用が国際的に注目されています。形状・色彩・デザインが規格化されており、言語を問わず視覚的に危険を伝えることができます。

ただし、同研究では「一部のピクトグラムは意味が直感的に伝わりにくいものも存在し、補足テキストや訓練による理解の支援が必要」とされています。ピクトグラムを現場掲示するだけでなく、入社時の教育で「このマークが何を意味するか」を母国語で説明する機会を設けることが実効性を高めます。

採用後の安全教育チェックリスト

免許取得ルートにかかわらず、以下を企業の安全教育の基本として整備することを提案します。

実施事項内容外免切替教習所
日本の交通ルール確認左側通行・優先道路・交差点ルール等を母国語資料で確認必須推奨
業種固有の技能訓練大型車・旅客車固有の操作・死角・内輪差等のOJT必須必須
乗務ルートの事前習熟担当ルートの下見・走行練習必須必須
緊急時対応の説明事故・故障時の手順を多言語または図解で説明必須必須
ピクトグラムの説明車両・施設の安全標識の意味を母国語で解説推奨推奨
日本語でのコミュニケーション練習指示・無線・報告に必要な最低限の日本語必須推奨
段階的な乗務範囲の拡大習熟度を確認しながら徐々に担当を広げる必須推奨
定期的な振り返り・ヒヤリハット共有多言語対応のヒヤリハット報告の仕組みを整備推奨推奨

ともに体制をつくるパートナーとして

特定技能「自動車運送業」における外国人ドライバーの受け入れは、まだ始まったばかりです。在留者数151人という数字が示すとおり、制度としては整いつつある一方、現場での運用はまだ手探りの段階にある企業がほとんどです。

安全教育の課題は、現場ごとに異なります。どのルートで免許を取得したか、どの国籍・文化背景の人材か、どの業種・どの路線・どの車両を担当するか——条件が変われば、必要な教育内容もアプローチも変わります。

さらに難しいのが、「ヒヤリハット」の感覚の違いです。何を危険と感じるか、どの状況で報告すべきか、その基準は文化的背景によって異なります。日本の現場で培われてきた安全文化の感覚を、言葉や国籍を越えて共有していくことは、一朝一夕には難しい課題です。

いろはなは、そのハードルを企業だけに任せるのではなく、一緒に乗り越えていくパートナーでありたいと考えています。人材の採用・在留手続きはもちろん、「どう安全教育の体制をつくるか」「出国前教育の状況を事前に把握できるか」「多様な文化背景を踏まえた育成の仕組みをどう設計するか」——まだ答えが決まっていないこの分野だからこそ、現場の実情に合わせた体制づくりを、ともに考え続けるパートナーとして関わっていきます。

自動車運送業分野の特定技能採用について、まずはお気軽にご相談ください。